「――そんなの生きてるとは言わない」
二〇〇八年二月末。在学していた私立羽爪宮高校の校舎屋上から、《彼》―― 一対谷双葉は飛んだ。昏睡にとどまる飛行の末、果たして《彼》の左眼は光を失い、赤く変色した右眼は見えすぎるようになった。
万物には《在りたい》という悲願があり、死してなお生きたいと願った本来此岸にはいない者――此者。死ぬことなく己の悲願を体現し異常を引き起こす者――彼願者。彼らの存在を、《彼》はオフィス《共同体》のオーナーである義から教えられる。
本人の意志に拘わらず、其処に在るという事実を見取ってしまう暴力のような客観視――赤眼を得た《彼》もまた彼願者であり、そして義は、そんな《彼》に相次ぐ連続此者殺しとして疑っていると告げる。