妊娠に対し食べると良いもの/食べたらダメなもの
本投稿は,妊娠前や妊娠中において、女性や男性が食べると良いもの/食べてはダメなもの等に関し,調べた結果です.随時調べて追記してゆく予定です.
本投稿は,妊娠に対する「メニュー」ではなく,「各栄養の働き・効果」と「各栄養が含まれる食材」の観点でまとめてあります.そのため,本投稿の題目にて「妊娠に対し」と銘を打ってはいるものの,妊娠に限らず万人に役立てることができると思います.
例えば「ビタミンB群が不足すると、脂肪の分解ができず太りやすくなるそうです.ではそのビタミンB群を含んでいる食材はというと――」といった事柄は,妊娠に限らず万人に通ずることかと思います.
目次
1. 妊娠に対する食事全般に関して
妊娠中に食べてはいけない食品は特にない.同じものばかり毎日食べることを避け,5つの基礎食品(①緑黄色野菜・淡色野菜・果物,②大豆・魚介・卵・肉,③七分づき米・小麦粉・麺・芋,④牛乳・乳製品・骨ごと食べる魚・海藻,⑤バター・食用油・マーガリン・肝油)を満遍なく食べるようにすること[1].
普通に食事をとれている人であれば,カルシウム剤や総合ビタミン剤をあえて飲む必要は無い.食物から栄養を摂った方がバランスの良い栄養素が吸収でき,安上がりでもある[1].
一方では,上記のように,満遍なく食べている限りにおいては「妊娠中に食べてはいけない食品はない」と述べるものもある.他方で,後述するように食べてはダメなもの(控えた方が良いもの)を列挙するものもある.
本投稿の筆者の所感として,これは「栄養素」の観点から述べているのか,「食材」の観点から述べているかの違いに思われる.例えばひじき(食材)は「一方で鉄分豊富な食材であるが,他方で海藻類の中ではヒ素が多く含まれている」ことから,食材としては食べてはダメなものとして上げられていると考える.
妊娠周期ごとにおける摂りたい栄養素量[2]
栄養素 | 非妊娠時 | 妊娠初期 | 妊娠中期 | 妊娠後期 |
エネルギー [kcal] | 1,700 | 1,750 | 1,950 | 2,150 |
たんぱく質 [g] | 50 | 50 | 55 | 70 |
脂肪エネルギー比率 [%] |
20以上~30未満 |
|||
カルシウム [mg] | 650 | |||
鉄 [mg] | 6.0 | 8.5 | 21.0 | |
ビタミンA [μgRE] | 650 | 730 | ||
ビタミンB1 [mg] | 1.1 | 1.2 | 1.3 | |
ビタミンB2 [mg] | 1.2 | 1.4 | 1.5 | |
ビタミンC [mg] | 100 | 110 | ||
ビタミンD [μg] | 5.5 | 7 | ||
葉酸 [μg] | 240 | 480 |
2. 食べると良いもの
たんぱく質[2]
【働き・効果】
- 筋肉や血液など,赤ちゃんの身体を作るために必要
- 不足した場合
- 母体の体力が落ち,元気がなくなる
- ホルモンや精神のバランスが崩れ,イライラする
【食材】
- 動物性たんぱく質
- 肉類(牛・豚・鶏・レバーなど)
- 卵
- 魚介類(マグロ,カツオ,イワシなど)
- 牛乳
- 乳製品
- 植物性たんぱく質
- 大豆
- 大豆製品
- 穀物
植物性たんぱく質からしか摂ることができない栄養もあるため,植物性と動物性のどちらもバランス良く摂ること.
カルシウム[2]
【働き・効果】
- 赤ちゃんの骨や歯を作るために必要
- 不足した場合
- 妊娠中は,母体の骨や歯に蓄えられたカルシウムから優先的に赤ちゃんに供給される
- そのため不足していても,赤ちゃんの成長にはほとんど影響がない
- しかしその影響により,母体が低カルシウム血症を引き起こす.これにより,母体において,神経や筋肉の痙攣,骨粗しょう症になってしまう場合がある
【食材】
- 牛乳
- ヨーグルト
- ちりめんじゃこ
- 大豆
- 豆腐
- 小松菜
- ひじき
- 昆布
- わかめ
ビタミンDを含む食材と一緒に摂ると良い.牛乳,乳製品,小魚は,カルシウム吸収率が高い.
鉄[2]
【働き・効果】
- 血液を作る
- 血液中の赤血球を構成するヘモグロビンの成分
- 酸素を身体中に運び,貧血を予防/改善する
- 妊娠中は,赤ちゃんへ栄養を届ける役割も担っているため,妊娠前よりも多く必要となる
- 不足した場合
- 貧血になりやすくなる
- 出産時に出血が多くなったり,産後の回復が遅れたりする
【食材】
- 牛赤身肉
- レバー
- カツオ
- イワシ
- あさり
- 小松菜
- ほうれん草
- ひじき
ビタミンCを含む食材と一緒に摂ると良い.
食物繊維[2]
【働き・効果】
- 便秘解消に欠かせない
- 妊娠中は,ホルモンの影響で腸の動きが抑えられる.また,中期以降は子宮が大きくなり大腸が圧迫されるため,腸の動きが鈍くなる.そのため,より便秘が生じやすくなる
- 不溶性食物繊維は,便のかさを増して大腸の動きを促し,便秘を予防する
- 水溶性食物繊維は,便を軟らかくし,排出しやすくする
- 不足した場合
- 便秘になる
【食材】
- 不溶性食物繊維
- 玄米
- 大豆
- ごぼう
- 蓮根
- きのこ類
- 水溶性食物繊維
- さつまいも
- かぼちゃ
- 海藻類
野菜は火を通し多く食べられるようにしたり,主食を食物繊維が多い玄米や胚芽米にする方法がある.
ビタミンA
【働き・効果】
- 免疫機能を維持し,病原菌やウィルスから身体を守る働きがある[2]
- ビタミンAは脂溶性ビタミンであり油に溶けるため,摂りすぎた分は尿によって排出されず,身体に蓄積される[2]
- 過剰に取りすぎた場合
- 妊娠初期に摂りすぎると,赤ちゃんの形態に悪影響を及ぼすことがある[2]
【食材】[2]
- レバー
- ウナギ
- 卵黄
- にんじん
光や酸素に弱いので,手早く調理すると良い.また,油で調理すると良い[2].
ビタミンB群[2]
【働き・効果】
- 疲労を回復し身体を動かす
- B1は,疲労回復を促す
- 糖質・脂質・たんぱく質を,エネルギーに変える
- B2は,成長を促進する
- B12は,悪性貧血を予防する
- 妊娠中は,身体に負担がかかることからビタミンB群の必要量が増える
- 不足した場合
- 脂肪の分解ができず,太りやすくなる
- 水溶性ビタミンであり,身体に蓄えておけないため,毎日摂ることが肝要
【食材】
- レバー
- 鶏肉
- 青背魚
- 貝類
- 卵
- 大豆製品
- ごま
- 玄米
- 緑黄色野菜
B1は,ニラや玉ねぎ等と一緒に摂ると良い.B2は,直射日光に当たると壊れやすいため注意が必要である.
ビタミンC[2]
【働き・効果】
- 疲れやストレスを軽減する
- ウィルスの侵入を防ぎ,風邪を予防する.また,風邪を引いた場合も,回復を早める効果がある
- 抗ストレス作用により,イライラを鎮めたり,気持ちを落ち着ける
- コラーゲンを生成するため,美肌効果もある
- 不足した場合
- 肌の調子が悪くなる
- 風邪にかかりやすくなる
- 水溶性ビタミンであり,身体に蓄えておけないため,小まめに摂ることが肝要
【食材】
- ピーマン
- レモン
- キウイ
- パセリ
- 柿
- モロヘイヤ
- ブロッコリー
- グレープフルーツ
- オレンジ
壊れやすいため,手早く調理すること.また,水に流れてしまうため,野菜や果物は可能な限り生で食べると良い.
ビタミンD
【働き・効果】
- 腸や腎臓で,カルシウムとリンの吸収を促進する
- それにより,血液中のカルシウム濃度を調整し,骨の成長を助ける
- 不足した場合
- 小腸からのカルシウムの吸収が不十分になり,必要な分のカルシウムを吸収できなくなる
- 摂りすぎた場合
- 高カルシウム血症や腎障害など,過剰症を引き起こす恐れがある
- 通常の食事では問題はほとんどない.サプリメントや薬などを大量に摂取することはやめること
【食材】
- きくらげ
- 干し椎茸
- サンマ
- カレイ
- しらす干し
油に溶けるため,油で調理すると良い.
葉酸
【働き・効果】
- ビタミンBの一種であり,細胞分裂やDNAの合成に必要
- 胎児の正常な発育に重要となる
- たんぱく質を合成するときに使われ,赤ちゃんの身体や器官を作る妊娠初期には,特に大切な栄養素である[2]
- 赤血球を作る際にも使用される[2]
- 貧血の予防に役立つ
- 胎児の神経管閉鎖障害発症リスクを低減する[2][3][4]
- 不足した場合[2]
- 赤血球を作ることができず,貧血(悪性貧血)を引き起こし,体内が酸欠状態になる。これにより,立ちくらみ,頭痛,動悸,息切れなどの症状が出る
- レバー
- 青菜類(ほうれん草など)
- ブロッコリー
- アスパラガス
- キャベツ
- ウナギ
- 枝豆
- 白菜
- さつまいも
- いちご
- オレンジ
水や熱に弱いため,さっと調理すると良い.また,味噌汁やスープにいれ汁ごと食べる方法もある[2].
3. 食べたらダメなもの
アルコール
【影響】
- 男性かつ妊娠前に対する事柄
- 父親が慢性的なアルコールに晒されている場合,精子に悪影響を与え,胎児に先天異常を引き起こしうる.禁酒から1ヶ月経過しても,精子への悪影響は残る ※マウスでの実験結果[5]
- 慢性アルコール中毒症の妊婦から先天異常児が生まれることが多い.ただしこれは特殊な場合である.普通の生活状態を送っている人が,満遍なく適度に摂取する場合は,胎児の発育に障害を与えることはほとんどないと言われている[1]
- 純アルコールの平均摂取量が30ml/日に達しない程度であれば,異常の発生が低いと言われている(ただし米での研究)
- 30mlの純正アルコール:コップ3杯判のビール,コップ1杯の葡萄酒や日本酒
【食材・料理】
- お酒
カフェイン
【影響】
- 動物にカフェインを大量に投与した場合,奇形の発生を認めた報告がなされている[1]
- 珈琲を多量に常用していると,低体重児を出産する頻度が高くなる[1]
- 鉄分の吸収を妨げる(貧血の場合は,特に注意が必要)[6]
- ただし,1~2杯/日を飲む程度であれば,問題は無い[1]
【食材・料理】
- お茶
- 紅茶
- 珈琲
大型回遊魚[6]
【影響】
- 水銀濃度が高いため,赤ちゃんに悪影響を及ぼす可能性がある
【食材・料理】
- マグロ
- 金目鯛
生肉[6]
【影響】
- 肉がトキソプラズマに感染している可能性が高い
- 妊娠初期にトキソプラズマ感染症に罹患すると,赤ちゃんにとって発達の遅れや視力障害などが起こる恐れがある.また,流産の原因にもなる
【食材・料理】
- 生肉
- 加熱不十分な肉
- 生ハム
ひじき[6]
【影響】
- 一方で鉄分豊富な食材であるが,他方で海藻類の中ではヒ素が多く含まれている
- よく水に戻してから調理し,とり過ぎないよう注意が必要
揚げ物[6]
【影響】
- 食べ過ぎると,妊娠糖尿病のリスクが上昇する
- 妊娠中は,揚げ物などが食べたくなる
- 妊娠すると胎盤から何種類ものホルモンが分泌され,血糖値が高くなりやすい.つまり血糖値が下がりにくいとも言える.そのため,普段は血糖が出ないような人でも,検出されることがある
参考文献
- 堀江重信: 新版 赤ちゃん 妊娠・出産・育児の百科, 新日本出版社, (1988).
- 田中守, 牧野直子: 妊娠中のおいしい食事と栄養, ナツメ社, (2013).
- 厚生労働省, 妊娠前からはじめる妊産婦のための食生活指針~妊娠前から、健康なからだづくりを~(令和3年), https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/a29a9bee-4d29-482d-a63b-5f9cb8ea0aa2/aaaf2a82/20230401_policies_boshihoken_shokuji_02.pdf, (参照 2024-1-7).
- 国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所, 妊娠前からはじめる妊産婦のための食生活指針―妊娠前から、健康なからだづくりを―, https://www.nibiohn.go.jp/eiken/ninsanpu/, (参照 2024-1-7).
- Alexis N. Roach, Sanat S. Bhadsavle, Samantha L. Higgins, Destani D. Derrico, Alison Basel, Kara N. Thomas, Michael C. Golding: Alterations in sperm RNAs persist after alcohol cessation and correlate with epididymal mitochondrial dysfunction, Andrology Dec 3.
- 渡邊理子: 妊娠・出産ガイドBOOK:はじめてママとパパの本, 学研プラス,(2015).